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大阪高等裁判所 平成元年(う)967号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年二月に処する。

原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人臼田和雄作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は量刑不当を主張するが、論旨に対する判断に先立ち、まず、職権により調査すると、記録によれば、原判決は、罪となるべき事実の第一として、被告人が公安委員会の運転免許を受けないで軽四貨物自動車を運転した旨の事実を認定判示し、その証拠として、右事実の自白を内容とする被告人の司法警察職員(平成元年七月七日付)及び検察官(同月一三日付)に対する各供述調書のほか、無免許の点について、これを補強する証拠として、司法警察職員作成の「運転免許証に関する調査報告書」を挙示しているが、右判示事実中、被告人が同判示の日時・場所において前示軽四貨物自動車を運転したとの点については、右自白を補強する証拠を掲げていないことが明らかである。したがって原判決には、刑事訴訟法三一九条二項の規定に違反し被告人の自白のみで原判示第一の犯罪事実を認定した訴訟手続の法令違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわざるを得ない。そして、原判決は、右事実にかかる罪とその余の原判示第二の罪とが刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものとして一個の刑を科しているので、原判決は全部につき破棄を免れない。

そこで、弁護人の控訴趣意に対する判断を省略し、同法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄して、同法四〇〇条但書により、更に次のとおり判決する。

罪となるべき事実及び累犯前科については原判決記載のとおりであり、証拠の標目については、第一の事実につき、司法警察員作成の「被疑者Aにかかる道路交通法違反(無免許運転)の認知状況について」と題する書面を加えるほか原判決挙示の証拠の標目のとおりであるから、それぞれ原判決の記載を引用する。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、判示第二の所為は刑法二三五条にそれぞれ該当するが、判示第一の罪について所定刑中懲役刑を選択し、被告人には前記の前科があるので同法五六条一項、五七条により判示第一及び第二の各罪についてそれぞれ再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が判示第二の窃盗を犯し、その盗んだ軽四貨物自動車を無免許運転した事案であるところ、犯行の各動機に酌量の余地は少ないこと、盗んだミシンは直ちに古物商に売却し、軽四貨物自動車は一〇日以上にわたって無免許で乗り回すなどしていたこと、被告人は右累犯前科を含めて道路交通関係の多数の前科を有していることなどの諸事情に照らすと、犯情は軽くない。したがって、本件窃盗は偶発的犯行であること、窃取した自動車等はその後捜査官から被害者に還付され被害の大半は回復していること、窃盗の被害者からは被告人宛に宥恕の意思が示されていること、その他被告人の反省の情等被告人のため酌むべき事情を考慮しても本件につき主文の量刑はやむを得ないと考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 髙橋通延 正木勝彦)

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